骨髄異形成症候群(MDS) − 移植の現実

骨髄異形成症候群(MDS)の移植についての情報

 骨髄異形成症候群の移植については患者さん・ご家族から質問が多く聞かれるため、移植の現状をまとめていきます。

ネットでの情報


・骨髄異形成症候群(MDS)の治癒が期待できる唯一の治療法です。
強力な化学療法や全身への放射線照射を行い、造血幹細胞などの血液細胞を破壊した後、正常な造血幹細胞を移植して、造血機能を回復させる治療法です。移植を行うためには、年齢や全身の状態、ドナーの有無などの条件を満たす必要があります。
(日本新薬 「骨髄異形成症候群を知る」より)

・同種造血幹細胞移植は、骨髄異形成症候群の治癒が期待できる唯一の治療法ですが、 ドナー(造血細胞の提供者)の有無や年齢、全身状態など条件があります。
(国立がん研究センター がん情報サービスより)

・根治を期待できる唯一の治療方法は、同種造血幹細胞移植です。かつては同種移植の年齢の上限は50歳とされていましたが、 最近の支持療法の進歩や、骨髄非破壊的同種造血幹細胞移植(いわゆるミニ移植)の開発によって、70歳くらいの患者さんまで適応が広がっています。
(Yahoo!ヘルスケアより)

・重症例に対しては根治療法として、造血幹細胞移植を行う。異常クローンを根絶し、正常造血を回復させるのが目的である。現在移植の適応は50〜55歳以下に限られている。
(根治療法:疾患の完全治癒を目ざしてその原因そのものを取り除こうとする治療法。)
(Wikipedia -「骨髄異形成症候群」より)


 患者さんはこのような情報を医師から聞かされたりネットで見たことで、
 「移植をしなければならない」、「自分は年齢的に移植はできなくてガッカリ……」
 といった様々なことを思われています。

 また、骨髄異形成症候群の患者支援団体にも移植に関連するたくさんの相談が寄せられています。

相談例


<移植前>
・数件のSecond Opinionを行ったが、どの医師からも移植を勧められた
・「今が移植のチャンスです」と言われた
・「先々では移植が難しくなります」と言われた
・「あなたなら移植をすれば100%近い90%大丈夫」と言われた
・「今のままではあなたの5年後は見えない」と言われた
・「うちならあなたの年齢でも移植できます」と言われた
・「移植の他に治療法はありません」と言われた
・「うちは日本で一番移植件数が多いんです」と言われた
<移植後>
・移植しないと5-10年しか生きられないと言われ移植したが、すぐに再発し1年も生きられないらしい。
・移植1ヶ月後には、当大学でも5本の指にはいる成功例ですと言われたが、2-3ヶ月後に再発したら顔もみない。GVHDで目も開けられず、肺炎を繰り返している。
・前処置で大量の抗癌剤を投与され、苦しくて中止したい。死んだほうがましだ。
・再発したら退院を迫られた。
・再発後、一時退院したら再入院を拒否された。



 医師の勧めで移植を決断される場合が多いようですが、実際には移植された患者さんから深刻な相談が寄せられています

米国の骨髄異形成症候群(MDS)に対する移植の状況



 上記の画像は、2013年に出版された米国臨床腫瘍学会雑誌の記事の一部で、
 「骨髄異形成症候群にBMT(=骨髄移植)は是か非か?」というものです。

 米国では移植について学会などで積極的に議論が行われていますが、
 日本では今も議論がなされずに多くの医師が移植を勧めています。


 また、米国の公的医療保険は「骨髄異形成症候群の造血幹細胞移植」に対する支払いを2010年に停止しました。
 理由は骨髄異形成症候群の治療に移植が有益である明確な根拠がないためです。
 但し、移植が有効かどうかを検討する前向き試験へ参加した場合については支払いがされています。

 このように、骨髄異形成症候群の移植に関する認識は、米国と日本では大きなギャップがあります。


骨髄異形成症候群(MDS)における造血幹細胞移植

 実際に骨髄異形成症候群の移植がどのように行われるか、またその移植後について見ていきます。

同種造血幹細胞移植の概要


造血幹細胞移植には、自己(患者自身の)造血幹細胞移植もあるが、MDSではもっぱら同種造血幹細胞移植(他の人の幹細胞を用いた移植)が行われる。

<移植の流れ>
@血液細胞を作る能力のある造血幹細胞を準備する。兄弟、骨髄バンク、臍帯血などから移植関連抗原(HLA)の適合度で選択。
A患者さんに大量の抗癌剤や放射線を投与し、腫瘍細胞・免疫機能を攻撃しておく(前処置)。
B造血幹細胞を点滴する(移植)。
C移植した細胞が患者さんの残った腫瘍細胞を攻撃するが、正常細胞をも攻撃するので、長期に渡り免疫抑制剤でコントロールする。

<関連情報>
・移植後早期でさえ20-40%の死亡率がある。
・移植後中期以降
 1) 移植細胞が正常細胞を攻撃するため色々な臓器障害が多発し、しばしば致死的となる。
    (GVHD=移植片対宿主病、graft versus host disease)
 2) 腫瘍の再発も多い(非腫瘍性疾患である再生不良性貧血ではこれがないため、腫瘍性疾患と比較して移植の成績が良い)。
 3) 正常な生活が損なわれることが多い


幹細胞移植後


造血幹細胞移植後には、様々な感染症や、GVHD(=移植片対宿主病)などの合併症が発症する恐れがあります。

<感染症>
・移植後初期は細菌感染症の危険が特に高い。
・移植後全経過にわたって、さまざまな種類のウイルス感染症の危険に晒される。
・真菌(カビ)感染症の危険も同様である。

<GVHD=移植片対宿主病>
移植を行った際に、ドナー(幹細胞提供者)の臓器が免疫応答によってレシピエント(患者)の臓器を攻撃することによって起こる症状の総称です。

@急性(Acute)
 ・通常100日以内に起こり、皮膚、腸、肝臓などの臓器が影響を受ける。
A慢性(Chronic)
 ・通常100日以降に起こり、皮膚、腸、目、肺などが影響を受ける。
 ・GVHDが起きると日和見感染症(普段は病原性のない微生物による感染)も置きやすくなる
 ・これらの影響により、生活の質(QOL)が低下

!危険因子!
・急性GVHDの既往歴 / ・非血縁者ドナー / ・HLAが不適合な移植の場合 /
・女性がドナーで男性が患者の場合 / ・患者やドナーが高齢者の場合


幹細胞移植後 − その他の合併症



<合併しやすい疾患>
・遅発性感染と免疫障害
・遅発性の肺疾患(拘束性肺疾患や慢性閉塞性肺疾患)
・遅発性の肝臓の合併症(B / C型肝炎や鉄過剰)
・遅発性の白内障を含む目の疾患
・二次性のMDS、白血病、悪性腫瘍
・不妊、性的機能障害

・甲状腺機能低下などの内分泌異常
・心不全
など

<心身への影響>
・知性や集中力の低下
・感情障害
・疲労感
・職場復帰が困難
など

 このように、移植を行うと様々な要因で生活の質(QOL)が損なわれる恐れがあります。

骨髄異形成症候群(MDS)に対する造血幹細胞移植の成績

 移植後の感染症やリスクについて挙げていきましたが、実際に移植をされた方の生存に関するデータについて公表されているものを見てみましょう。



 こちらは2004年に米国血液学会にて掲載された移植と移植をしていない患者さんの生存曲線の比較です。
 このデータでは低リスク(Low、Int-1)の骨髄異形成症候群患者さんには移植をしない方が成績良い
 という結果になっており、当時移植を勧めていた専門医にとっては衝撃的でした。

 また、高リスク(Int-2、High)の患者さんについては、現在のアザシチジン(ビダーザ)や鉄キレート剤(エグジェイド)、G-CSFなどの注射薬といった治療法がまだなかったため、移植をした場合が生存率が良いように見えます。

しかしながら左のグラフを見て下さい。左は高リスク(Int-2、High)の患者さんについてのドイツのデータがメインのグラフです。これをみると高リスク(Int-2、High)の患者さんについても、ほとんど結果は変わりません。
黒が移植で、赤が通常治療です。但し、この時代はまだビダーザがなく、通常治療というのは急性骨髄性白血病の抗がん剤を使用しています。

右はイタリアのデータがメインのグラフです。これも先ほどのフレッド・ハッチンソンのデータとリスク分類は違いますが(IPSS-R)、ほぼ妥当な曲線を描いています。
 これも年齢中央値が48歳で若いMDSの患者さんに関するデータです。




こちらは東京血液疾患診療所の治療成績です。
リスク分類はIPSS-Rで2004年の物とは異なりますが、70才という年齢中央値にも関わらず2014年のイタリアの移植のデータと比較して、全てのリスク群で成績が良い(生存率が高い)ことがわかります。

長年の研究で得られた知識と類をみない多くの経験によって工夫された適切な治療の選択、個々の患者さんに合わせた対応で治療成績は大きく改善されています。
 
 このように、東京血液疾患診療所の緒方先生の治療成績は移植の治療成績に比べはるかに良いため、緒方先生はどんな年齢の患者さんに対しても、どのようなリスクの患者さんに対しても移植を勧めません。

日本の造血幹細胞移植

 日本の医療機関の多くは 移植を行った数を競って公開していますが、移植成績の公開については極めて稀です。

 

 上記の移植生存率にあるように、病気の種類によって移植の成績は大きく異なります。
また低リスクMDSに対する移植が多ければ、MDSの移植の生存率は高くなり(K病院)、高リスクMDSを多く移植している施設では低くなる(H大学)と推測できます。

これは珍しくリスク別ではなく、病型別の分類に基づいた移植の生存率グラフになります。


 家を買うよりも重大なことなのに、移植の成績だけは盲信して、盲進する方々が多いように感じます。





最後に

 骨髄異形成症候群において、「完治には移植が必要である」、「移植をするなら今がチャンス」、
 「他に治療法がない」といった移植を勧める情報・言葉がありますが、骨髄異形成症候群の
 移植の現実はそれとはかけ離れたものです。

 移植を勧められて移植しようと考えている方や、移植を既にした方にはショッキングな内容であると
 思いますが、実際に移植をした方から悲惨な話が多く寄せられており、正しい情報を提供する必要が
 あると考え、骨髄異形成症候群の移植の現実を公開しました。